「鷺泉」の雅号で書かれた「古酒の話」は多くの古酒の話の語り草ですが
初めて、その随筆本文を読ませていただきました。伝え聞くように実に
面白く興味をそそられます。この写真は当店のささやかな甕です
曰く「元来泡盛の古酒が西洋辺りの葡萄酒の様に、只穴倉に入れて置いて
済むものではない。古酒を作るには最初から此れに注ぎ足す用意として
少なくとも二、三番ないし四、五番までの酒を作って置きながら、
数百年の間、蒸発作用に依る減量酒精分の放散等に対し、常に細心の
注意を以て本来の風味を損ぜしめない様に蓄えて置く苦心を認識したら
誰しも此れに宝物の名称冠するに於いて異存は無いものであろう。」
「若し今日厳格に県下にある真銘の古酒成るものを検討したら
其の所有量は一石の上には出ないだろうと思われる程に、誠に
少なく得難い品物となっている」
以下要約すると、薩摩藩役人の接待時や家族の25年忌以後33年忌までの
法事の時。元服、婚礼、73の生年祝、米寿の祝い等に、古酒の用意が出来ないと
大家名門と呼ばれている家柄であっても面子にかかわる問題であったので
如何なる対価を払っても買い入れなければならなかったとの事や、
金庫のカギは家来に預けても古酒蔵のカギは当主自ら所持していた事
また、宴席などで主人が古酒をもてなすときは5勺か一合位の小さな酒器
に入れて親指大の小さな盃に一杯だけ酌し、お代わりを要求することは
失礼にあたったようです。
更に、この様な事も掛かれています。
都合によってどうしても古酒を購入する時のその頃の値段ですが
驚くなかれ、この様に書かれたいます。
「百年位のもの一合が一円、二百年位のが二円、三百年は三円と云う評判であった」
昭和の初めごろの記述ですから現在の価値で一円が2千円以上ではないでしょうか、
それにしても僅か80年ぐらい前には百年・二百年・三百年の古酒が存在し、
買う事が出来た事に驚嘆します。
この頃には一定の範囲で庶民にも「泡盛」が飲まれていましたのですが、
ここに記されているような古酒はよほどの経済力のある階層の方しか
飲めなかったのではないでしょうか。
今日、伝え聞く処によりますと、本部のある方のコレクションに百年ほどの
古酒があるようです。亡くなられた皇族の方が時々来沖した折に
ホンのチョットここに書かれているように嗜まれたとの事です。
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